第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
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舞が作った食事に箸をつけていると佐助が目を覚ました。
薬で熱は下がっているようだが、だるそうにしている。
ただの風邪なら気力で治させるところだが、流行り病ならば大人しく見守るしかない。
巷では『高熱が出る上にうつりやすい、質の悪い風邪』と言われているが、この二人は『いんふるえんざ』という明確な病の名を口にしている。
悪化すれば脳や肺を患うなどと誰も口にしていなかったが舞ははっきりと断言していた。
俺が知らぬ病なら、知っている者が近くに居た方が良いと判断し看病を許したが……
(何故にこうも苛つくのだ)
佐助と舞は二人の世界を作り出し、俺の存在を忘れているかのように仲睦まじく話をしている。
恋仲なのだから当たり前だがどうにも怒りがこみあげてくる。
佐助から恥ずかしげに視線をずらした舞と目が合った。
謙信「………」
(主君の前で部下が女と睦み合うなどと大それたことを)
苛立った俺と目が合い、舞が顔を引きつらせている。
謙信「俺の目の前で睦み合うな」
そう言ってやると舞は大慌てで佐助から離れて土間の方に移動した。
佐助「舞さんを苛めないで下さい」
呆れた口調で言ってくる佐助だったが、苛めたつもりはない。
大体人前で睦み合う方が問題だろう。
謙信「いつ俺が苛めた?」
佐助「たった今です」
謙信「ふん、何故あの女を苛める必要がある?」
佐助「苛めて愛でているように見えたんですが気のせいでしたか」
謙信「何を的外れなことを言っている。さっさと食べて滋養をつけろ」
佐助「はい。ところで舞さんの料理、美味しいですね」
謙信「……」
睦み合っていたかと思えば今度は惚気始めた。高熱を出して佐助は頭がまいったか?
(いちいち付き合っておれん)