第56章 窮地を救うは誰の手か
信長「舞っ!!」
道半ばで名を呼ばれて顔をあげた。
ピストルを手に持ち、信長様がこちらに走ってくるところだった。
白い羽織が肩から滑り落ち、着物の裾を乱してこちらに向かってきてくれる。
「………っ!!」
怖くて怖くて声も出ない。
(聞こえるっ)
はっ、はっというクマの息使い。
草木を踏みつけ走ってくる重い足音。
助けてくれる人がそこに居る。
でもなかなか距離が縮まらない。そこに希望の光が見えているのに。
(っ、諦めるな!)
恐怖も、希望も、考えることを全て放棄して走ることに集中した。
(生きるためにできることは走ることだけ!)
クマの気配を聞かないよう聴覚さえ切り捨て、走る。
そうしていると身体を鈍らせていた恐怖から幾分解き放たれ、足の運びが良くなった。
信長様は私との距離が10mをきったところで足を止め、ピストルの照準をクマに合わせた。
(あと少しっ)
銃撃の邪魔にならないよう体勢を低くして、頭から滑り込むようにして信長様の足元に飛び込んだ。
ズザァ!という音と、地面に身を滑らせた衝撃に目を瞑った。
(っ、耳、塞がなきゃ)
銃声に備え、地面に這いつくばったまま両耳を塞いだ。