第56章 窮地を救うは誰の手か
バーン!と一度大きな音が鳴り、続いてバンバンバン!!と弾けるような音がなった。
それは耳がキーンとなるような大きな音で、投げた私自身が驚くようなものだった。
クマが驚いて煙の向こうに身を翻したのが見え、今のうちにと震える足に活を入れた。
『気持ちを奮い立たせて逃げて欲しい』
そう言ってくれた佐助君の言葉が背中を押してくれる。
(もう少しで小屋だ)
道がゆるい上り坂になる。心情的にも身体的にもきつい。
草履じゃなくせめてスニーカーだったら。
着物じゃなく現代の服だったら。
今更どうしようもないのに、そんなことを考えながら道なき道を走り続けた。
かんしゃく玉の音が止んだ。
「はあっ、はあっ、助けて……っ、謙信様っ」
走った先に居るのは信長様と蘭丸君なのに、口から出たのは謙信様の名前だった。
最後の武器は謙信様が護身用にくれた短刀のみ。
短い刃がクマに届いた時、私はどうなっているのだろう。
鋭い爪で傷を負い深々と牙をつき立てられ、それでも生きていられるだろうか。
(謙信様。約束を破ってしまったら、ごめんなさい)
謝ってもなんの意味もない。
謙信様は謝って欲しいなんてひとつも思っていないはず。
(『謝ってる暇があったら生きるために走れ』って、言うよね)
「っ」
走馬灯のように謙信様との思い出がよみがえる。
現代で過ごしていたときの思い出が多いけど、出会った頃の冷たい雰囲気の謙信様もいる。
(大好き……もう一度、会いたい!)
地面を蹴る足に力が湧く。
もう少しで小屋だ。