第56章 窮地を救うは誰の手か
はぁはぁと息が乱れる。
心がめちゃくちゃになって、怖くて、どうにもならないくらい混乱している。
ガサガサと草が揺れる音がした。
自分がたてた音じゃない。
(まさか…)
敏感になった耳が、その音が後ろからだと訴えている。
走りながら振り返ると黒い毛を血で汚したクマが、後ろから追いかけくるのが見えた。
手負いになったクマは我を失い、獰猛さをむき出しにしている。
よだれを垂らし、痛みを与えたのはお前だと言わんばかりに、狙いを定め走ってくる。
ドクン
心臓が恐怖で縮みあがった。
「やっ!?」
血が凍りつくとはまさにこのことで、身体が一気に冷たくなり、動きが鈍くなった。
逃げなきゃいけないのに恐怖で身体が動かない。
大きな巨体にも関わらず、近づいてくる速さが尋常じゃないくらいに速い。
「こ、こないで!」
私はかんしゃく玉を地面に投げつけた。