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☆一夜の夢☆〈イケメン戦国 上杉謙信〉

第56章 窮地を救うは誰の手か



「大丈夫…、行こう。足元に気をつけて」


龍輝は無言で頷き足を踏み出す。

一歩、また一歩進む。

でも私達の一歩とクマの一歩は歩幅が違う。

少しずつ少しずつ黒い体躯が近づいてきて、ついに毛の質感がわかるところまで距離は縮まった。

鼻先が濡れて光っている。
真っ黒な黒目が私達に真っ直ぐ向いているのがわかる。

私達を襲おうとしているのか、単に興味があるだけなのか、とにかく近づいてくる。

悲鳴をあげて逃げ出したい。

でもそれをやってしまったらおしまいだ。
逃げる物を追う習性がクマにはある。

窮地に追い込まれ、でも何としても龍輝を逃がしたかった。


(そうだっ!)


佐助君からもらった煙玉とかんしゃく玉の存在を思い出し、ゆっくりとした動作で胸元から取り出した。

預かった巾着から出てきたのは煙玉だ。


(風向きが悪いな)


今投げてしまうと煙が横に流れてしまい、効果は薄い。
下手に刺激してこっちに向かって走ってきたら大変なことになる。

風を待つしかない。


「龍輝」


真っ直ぐクマを見据えたまま、小さな声で呼びかける。


龍輝「何?」

「ママが『走って』って言ったら林に向かって走って。
 小屋まで走って信長様に知らせてくれる?」

龍輝「ママは?」

「ママには佐助君特製の煙玉とかんしゃく玉があるの。それを使ってなんとかするから、龍輝は走って。一人で行ける?」


龍輝は迷っているようだったけど二色の目をクマに向け、目元を鋭くさせた。

その顔つきがあまりにも謙信様に似ていて、こんな状況なのに感動しそうになった。

謙信様と私の宝物。


(絶対守る)


龍輝「………行く。行って信長様を呼んでくるっ!」

「ありがとう、龍輝。お願いね」


信長様を呼びに行ってというのは建前で、龍輝をここから逃すのが目的だ。


(まずは龍輝を生かす)


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