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☆一夜の夢☆〈イケメン戦国 上杉謙信〉

第56章 窮地を救うは誰の手か



「ゆっくり、音をたてないように逃げるよ。
 目が合っても大きな声を出したり、背中を向けて逃げ出さないこと。いい?お約束だよ?」


龍輝が今までになく真剣な表情で頷いた。

きっと初めて命の危険を感じているのだろう。
小さな拳を白くなるまで握りしめている。


「さあ、行くよ。立ち上がって…」


目をクマに向けたまま、龍輝の手をとった。
私も龍輝も手の平が異常に汗ばんで、冷たい。

立ち上がってもクマはまだ川の方を見ている。


(よし、移動するよ)


龍輝に目配せをして、身体はクマの方向に向けたまま、来た道の方へ横歩きする。

子供達と『かにさん歩き競争だ!』と遊んでいた昔が途方もなく懐かしい。
同じ横歩きをしているというのに、今は命の危険が迫っている。


気付かれないうちに林まで行けたら


……そう思った時だった。



繋いでいた龍輝の手にぎゅっと力が籠った。


(っ、目が合った!)


クマが私達に気づき、こちらを伺うように見ている。

ゴクリと喉が鳴り、極度の緊張で足がぶるぶると震えた。

睨めっこを続けたまま龍輝の手を引いた。
止まっていた足を一歩動かすと、クマの足が一歩動いた。


「!!」


(どうしよう、ついてくるのかな)


また一歩踏み出す。

クマも一歩近寄ってきた。


龍輝「ママ…」


横目で見ると龍輝が顔を引きつらせている。
安心させてあげたいけれど、今はできない。


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