第56章 窮地を救うは誰の手か
(クマっ!?)
感傷に浸っていた気持ちは彼方へ吹っ飛び、龍輝の視線を追う。
100m程離れた場所に一匹のクマが居た。
林から河原に出てきたところのようで、川に向かって悠然と歩いている。
龍輝の間違いであって欲しかったけど、本物だ。
(いつの間にっ、さっきまで居なかったのに!)
黒々とした毛皮は日差しを受けて焦げ茶色にも見える。
怖くて身体中の筋肉がぎゅうと縮みあがった。
動物園で見たツキノワグマよりも一回りも二回りも大きい。
(首の下に白い月の輪模様がない…ってことは、ヒグマ?
ここ、北海道なの!?)
こんな場面で今居る場所を知ることになるなんて。
(とにかく逃げないと)
座ったまま石のように固まっている私達に、クマは気がついていない。
(クマは水泳も木登りも駆けっこも得意…。逃げるならゆっくり、刺激しないように…)
どこかで聞いたクマの特徴を思い出し、龍輝に囁く。