第16章 忌まわしき日
馬車が走り去っていく。
ミカサから力が抜けたのを確認し、リヴァイはアリアを探した。
「アリア」
彼女は家のそばで、なにかにまたがっていた。
駆け寄り、声をかける。激しい戦闘で乱れた髪がゆるやかに動いた。
「兵長、」
アリアはどこまでも無表情だった。
右手に握りしめたレンガを放り捨て、ゆっくりと立ち上がる。血の海の中に頭を潰された兵士がいた。
「怪我は」
「ありません」
「エレンとヒストリアは連れ去られた。一旦戻って体勢を――」
「リヴァイさん」
アリアの全身は血にまみれていた。それはすべて返り血で。
頬についたものを服の袖で拭い、アリアは抑揚のない声でリヴァイを呼んだ。
「ぜんぶ、思い出しました」
リヴァイは指示を出そうとしていた声を止め、アリアを見た。彼女の青い瞳は暗い色に塗りつぶされていた。その目をリヴァイは見たことがある。
あの日、地上へ案内しろとナイフを突きつけてきた少女と同じものだ。
「……なにか、変わったか? 本当の自分は見つかったか?」
リヴァイの問いに、アリアは浅く笑った。髪をかきあげる。美しい金髪が赤く染まる。