第1章 ???
「……な、なに、これ」
ある家の屋根の上。
今にも雪が降り出しそうな重たい灰色の雲の下、女は息を荒らげて彼らを見た。
「……生きていたのか」
蒸発途中の巨人の血を全身に浴びた男はそれを乱雑に拭い、言う。
「…………ね、さ……ん」
女の足元には黒く焦げ、ただ人の形を辛うじて保っているだけのものが転がっていた。それの口元が微かに動き、声を発する。
「……こんなの、なんで……」
その声は、その炭の塊は女の弟のものだ。
女は視線を巡らせ、すぐ近くに寝かせられている大柄な男を見た。
片腕のない彼は脇腹を抉り取られ、気を失っている。持ってあと数分の命。だが生きてはいる。
「俺たちは選ばなければならない」
女の最も愛する弟と、女の最も尊敬する男が両者とも瀕死の状態。
だが救える命は一つだけ。
「……アルミン」
女の傍らに立つマフラーを巻いた少女がつぶやいた。その少し離れたところに立つ、緑色の目の少年は拳を握りしめ震わせていた。
「わたし、は……」
女は目を閉じ、深呼吸を繰り返す。
「わたしは」
再び目を開けたとき、女の顔に迷いはなかった。