第5章 あのね、
《リヴァイさん、》
「あ?」
《ごめんなさい。》
リヴァイには、優浬が謝っているのがわかった。
リヴァイは優浬の頬に手を添え、優浬をジッと見た。
優浬は自分の頬に添えているリヴァイの手を己のそれで包んだ。
そして、自分の頬に押し付けた。
リヴァイの手は暖かかった。
再び涙が溢れる。
リヴァイの目を見ていると、自然と口が開いた。
《ここに、私の居場所は無いんです。
家族も、友人も、知り合いでさえも、居ないんです。迷子になったみたいに、不安なんです。
どうやって帰ればいいのか、どうやってお金を稼いだらいいのか、どうやって住む場所を探したらいいのか、どうやって言葉を覚えればいいのか。
全くわからないんです。帰りたいんです…。》
ポロポロと涙を流し、言葉を繋いでゆく。
最後に、すみません伝わらないのに、と再び頭を下げる。
困らしてしまったという後悔と供に、聞いてもらったのがこの人で良かったと優浬は思った。
私がどれだけ弱音を吐こうが、今目の前に居るリヴァイには何も伝わらないのだから。
今だけは言葉が伝わらない事に感謝した。
「ユリ」と呼ばれ、優浬は顔を上げるとリヴァイの灰色の目と視線がぶつかった。
「テメェが何言ってんのか知らねぇが、そんな顔させる為にパンをやったんじゃねーぞ。」
《?》
「ハァ……、面倒だな…。」
彼は困った様に頭を掻いた。
それを見て優浬は再び頭を下げた。
彼を、困らしている。
私の為に繋いでくれた言葉も、わからない。
そして、先程とは全く反対の事を思ってしまった。
彼の言っている事が知りたい。
だがまずは、彼をこれ以上困らせない為にも、この空気を何とかしよう。
とりあえず、
《リヴァイさん、一緒に食べましょう?》
彼の上から降りて、バスケットの中のパンを一つリヴァイに差し出す。
自分の物の様に差し出してしまったが、彼は優浬にチョップを一つお見舞いし、受け取った。
手が出るの早いですよ。
END.