第12章 おだやかな、
その翌日から、リヴァイさんは1人で外出する日以外は私を連れて外に出てくれた。
私は誰が見ても東洋人だとわかる顔らしいので、外に出る時はいつも布でインド人の様に顔を隠している。
こんな怪しさ満点の女を、誰も雇おうとしてくれなかった。
さらに何度かリヴァイさんが目を離した隙に絡まれたり、連れ去られそうになった事もあった。
その度にリヴァイさんが返り討ちにしてくれた。
外に出るのが、もう両手で数えられなくなった頃だった。
誰もいない野原で地べたに座り、心地いい風に目を細めていると、ユラリと尻尾を揺らして猫が寄って来た。
《わっ、猫だ。》
「あ゛?」
《にゃー、》
黒に近い灰色の猫で、どこか隣に座ってる彼に似ている。
私に答える様に猫は、にゃー、と鳴くと、差し出した私の手に寄ってきた。
「あぁ、猫か。」
「かわイイでス。」
くんくん匂いを嗅ぎ、頭を撫でさせてくれた。
飼い猫だろうか。人懐こい。
私に十分構った後、隣で寝転がっていたリヴァイさんの腹に乗り、リヴァイさんを見てひと鳴き。
リヴァイさんはじっと猫を見た後、顎を少し撫でた。
猫は満足したのか、なんと彼の腹の上で丸くなってしまった。
《フフフッ、》
「笑ってんじゃねェ。」
「ふっ、すみ……マせん。」
優浬は謝るが、口元は笑っている。
すると何を思ったのか、彼女は常に持ち歩いてるスケッチブックと鉛筆を取り出した。
スケッチブックに鉛筆で、シャッシャッと白い紙を汚していく。
リヴァイは目を閉じ、鉛筆が紙の上を滑っていく音を黙って聞いていた。
これが平和というものなのか。
ふと、この穏やかな時間の名を考えると、自分の身とは真逆のものが表れた。
音が止まったのを感じ、リヴァイは目を開ける。
リヴァイの腹の上には今だに猫が我が物顔で居座っている。
「リヴァイ、さん。」
「何だ。」
描き終わったスケッチブックを、リヴァイに見せる。
彼はジッと見た後、ほぅ、と口を開いた。
「よく描けている。」
それを聞き、えへへ、とつい笑ってしまった。
腹の上の猫は、スケッチブックの中の自分と似た顔を見てひと鳴きし、ピョンっと飛び降りて、尾を揺らし去って行った。
この時間が続けばいいのに。
END