第1章 サンプル
俺は 恋をしていた。
花街によく来る美しい女性に。
きっと華族の方なんだろう。ブラウスに長いスカート、外套の代わりに矢羽の羽織を羽織ったその美しい女性は華やかな街に劣らぬほどに輝いているように見えた。
「見ろよ、様だ」
男娼の間では有名で、焦がれる男も少なくない。
俺とそんなに年が離れているわけでもなさそうなその人はこちらへと、楼の男達にゆったりと視線を向けた。
その口元に、美しい笑みが浮かべられる。
「ああ、正に天女のような美しさ」
誰が言ったかわからないが、その言葉に男達が天女と騒ぎ出す。
「うるせえなあ、静かにできんのか」
遣り手のそんな怒鳴り声に男達は静かになるものの、視線は一度も外すことなくその人へと向けられていた。
例外なく、俺の視線も。
あの人は、どんな声で啼くのだろう。
そんなことを想像するだけで、自身の摩羅が熱くなった。
「だめだぁ、あの人は宇髄の馴染みだし、俺たちなんて相手にされねえよ」
「けど宇髄は雛鶴のとこに身請けされるって噂もあるじゃねえか。万が一ってこともあるだろうし」
お前が、ねえなと男達が大笑いすると、再び遣り手の怒声が飛ぶ。
「うるせえよ」
楼が一瞬にして鎮まると、遣り手は俺を睨みつけた。
「炭治郎、おめえも遊んでねえで仕事しろ」
慌てて廊下へと飛び出してみると、廊下の奥をあの人が過ぎていくのが見えた。