第1章 1
「ずっと、見てました!好きなんです。付き合ってもらえませんか」
「…………」
『勇気振り絞って告白(い)うんだから、絶対ちゃんと向き合わなきゃ駄目!わかった?』
放課後の体育館裏。
目の前で真っ赤に頬を染めて泣きそうに顔を歪める名前も知らない彼女を前に。
思い出すのはいつだってあの子の言葉だ。
「…ぇ、と、ぁー、の。ありがとう。…………でも。見ててくれたなら、たぶんわかってると思うんだけど」
こーゆーのは、はっきり言って苦手だ。
早く終わらせて。
正直一刻も早くあの子のもとに戻りたい。
そして。
きっと今頃不安で押し潰されてるだろう彼女を抱きしめて、大丈夫だよって安心させてあげたい。
だから。
だから。
俺の答えはいつも同じだ。
「俺には、あの人が全てだから。応えることなんて出来ない。ごめんなさい」
「で、でも…………っ」
「うん、それでも。俺には彼女以外考えられないんだ」
深々と頭を下げて。
おっきな瞳から涙をボロボロ流す目の前の彼女へと、背中を向けた。
女の涙には魔力がある。
そんなの、興味ない女相手に発動するほど優しくもないし、感情豊かでもない。
俺が興味あるのはただひとり。
愛してやまないのは、ただひとり。
彼女のいる教室へと、急いで足を動かした。
「緋芽(ひめ)ちゃん」
息を切らして3階の教室へと階段を走り上がれば。
開けっぱなしの窓に両腕ついて外をぼんやりと眺めていた彼女が、嬉しそうに振り返る。
「皇(こう)」
笑顔でパタパタパタ、と駆け寄ってくる彼女の香りが、風と一緒に靡いて。
あっとゆーまに教室が心地よい空間へと変わるから、不思議だ。
「終わったの?」
「うん。待たせてごめんね?」
「…………帰ろう?」
遠慮がちにシャツの裾を指先で摘んで。
不安そうに揺れる瞳が、上目遣いでこちらを見る。
「うん」
そう、頷けば。
不安に揺れていた瞳はあっという間に満面の笑みへと、変わる。
この瞬間のこのなんとも言えない空気が、空間が。
俺は大好きなんだ。