第8章 君に触れる
硝子に高専へ来いと提案される前、1人で過ごすことが増えたマンションの室内では考え込むことが増えていた。
ずっと五条の家に匿ってもらっている現状は、このままでいいのだろうか。
五条の負担になっていないだろうか。
ずっとずっと、誰かに多大な迷惑を掛けて生きてきた。
私は家族も身寄りも恋人も居ない。
これ以上関係の無い誰かに迷惑を掛ける位ならば、私は死んだ方が良いのではないか。
何度も死を覚悟したにとって、ソレを選択する事は容易であった。
むしろ、想いを寄せてしまった五条に、これ以上迷惑をかけてしまう方が、彼女にとっては何よりも耐えがたいものだった。
「どうせ、両思いになれないなら、せめて迷惑はかけたくないなあ」
自立されると余計に迷惑だと言われたあの日、どれだけ自分の存在が害なのかを思い知った。
自分の感情を押し殺す為に五条と距離をとっていたが、それでも薄まらない好意。
しかし、激務で帰宅してこなくなる五条との距離は意図せずとも離れていくばかりで、の心はすでに限界だった。
────────…、
「……、」
「…原因は私の血にあることも、何となく分かりました」
「、」
「もう、限界なんです」
「だから五条さん、私を殺────…」
その瞬間、の唇は五条のそれで塞がれ、彼女の決死の懇顧は、半ばで途切れる。
「……五条さ、」
「好きだよ、」
は困惑が滲んだ瞳で五条を見つめる。
それでも構わず、五条は続けた。
「…キスするのも、これで2回目。まああの時は、応急処置でやったってのが事実だけど、それにつけ込んだ僕がいたのも事実」
「…夢じゃなかったんだ」
「ごめんね、夢と思わせて片付けようとしてた。僕は狡い男なんだよ」
視線を伏せた五条をは見つめる。
「でも、今日君が襲われたって知って、本当に後悔した。気持ちを伝えずに逃げたことも、君1人に色んな感情を背負わせたことも」
「…」
「その結果、君に死にたいって思わせてしまうまで追い詰めてた。本当にごめん」
の肩に顔を埋め、謝罪する五条を彼女はきそうな顔で見つめた。
「私、五条さんを好きでいてもいいの?」
「いいに決まってる。君は僕に守られててよ」