第7章 雨後
虎杖悠仁の死体が運ばれた研究室で、伊地知が再び五条にその時の事を説明する。
「特級と対峙した時の選択肢は、逃げるか死ぬか…。絶対に戦うなと彼らに忠告したのですが……」
「わざとでしょ」
「エッ、…と、仰いますと」
「特級相手…、しかも生死不明の5人の救助に1年生の派遣はあり得ない」
苛立つ感情を抑える様に、五条は自身の髪を軽く掻き乱しながら告げる。
「それに悠仁は、僕が無理を通して死刑に実質無期限の猶予を与えた。それを面白く思わない上が、僕の居ぬ間に特級を利用して、体よく彼を始末したってとこだろう」
五条の予測する上層部の企てに、伊地知は口元を掌で押さえ込み、唖然とする。
構わず、五条は続けた。
「他の2人が死んでも、僕に嫌がらせが出来て、一石二島とか思ってんじゃない?」
五条の言葉に伊地知は思考すると、身を乗り出し言葉を呈する。
「いや…っ、しかし、派遣が決まった時点では本当に特級になるとは………!」
しかし、そんな言い訳が五条に通じる訳もない。
「犯人探しも面倒だ。いっその事上の連中……、全員殺してしまおうか」
不穏な空気が一層強まった瞬間。
研究室の扉が開き、家入が姿を見せた。
「珍しく感情的になっているな。そんなにお気に入りだったのか、この子のこと。……ああ、いや、違うな。の事で気が動転しているのか」
「…僕はいつだって生徒想いのナイスガイさ」
五条の調子の良い言葉を無視して、家入は虎杖の遺体に被せられた布をはぎ取る。
「さて、と。これが宿儺の器か。好きにばらして良いんだよね」
「ああ……、ちゃんと役立てろよ」
「役立てるよ、…誰に言ってんの?」
ぽっかりと空いた虎杖の胸の内。深い深い奥底に沈んだ先で、呪いの王が嗤う。