第13章 月色の獣 - 馳せる想い*
そして無事に加世の嫁入りは決まった。
嫁ぎ先は実家より山二つ超えた人の足では遠い地に。
花嫁衣裳に美しく着飾った加世に皆は感嘆の声を、そして祝いの言葉をかけていく。
祝福が幾重にも与えられ、余計に衣装が重く感じるそんな中で、加世は心許無く供牙の姿を探していた。
「さすがに輿入れの場に、供牙を同行させる訳にはいかないだろう? 直ぐにあとからやらせるからどうか堪えておくれ」
加世はそんな父親の言葉を信じた。
彼女が嫁ぎ先の屋敷に着いた日も。
加世を娶った裕福な札差の主人が出迎え、その若い花嫁の美しさを喜んだ。
加世は待っていた。
生涯大切にすると言われ主人に破瓜を散らされた初夜も。
その屋敷では歳若すぎて周囲と馴染めなかった日々も。
そんな加世が周囲から冷遇され始めた毎日も。
ただ供牙を待っていた。