第11章 月色の獣 - 序
瞼の裏に薄く光の残像が見えて、もう朝なのかと思った。
もうすっかりと慣れてしまったベッドの隣を伸ばした手で確かめるといつもそこにある筈の彼がいない。
トイレかな……? 軽く身を起こすとそこは見慣れた自宅の寝室では無かった。
ただ真っ暗な中に明るく光る月と、その下にぼんやりと佇む白銀の獣。
ああ、琥牙だ。
狼になったんだ。
なぜかは分からなかったけどそう思った。
今私を見ている静かで優しげな琥珀の瞳のせいかもしれない。
月明かりに照らされたその体はきらきらと輝いて、息を飲むほどに綺麗。
珀斗さんを上回る大きく力強い体躯が揺るがない野生を思い起こさせる。
「良かったね。 最近は全然風邪も引かなくなったし、そのせいなのかなあ」
そう言いながら彼の傍に寄ろうとすると琥牙は僅かに後ずさった。
「大丈夫だよ。 どんな姿でも私は琥牙が好きだから。 むしろフワフワで気持ちよさそうだし」
すると少しだけ首を傾げてから伸ばされた私の指先に鼻をつけ、その頬を軽く擦り付けてくる。
向かい合わせで座ってる彼は私の腰の高さ以上に大きい。
その場でしゃがんでから私は腕を回して彼を抱きしめた。
「驚かないのか?」
「なんで? ふふ。 こっちは凄くおっきいんだね」
「変わった人間だな」
「そんなの琥牙が一番よく分かって……わ、こら。 くすぐったい」
肩の上に乗っけられた頭にスリスリと押し付けられて思わずくすくすと笑ってしまう。
「あ、でもさすがにするのはダメ。 人の時だけね。 ……頑張ればいけるのかもしれないけど、そこは超えちゃいけないラインっていうか」
「…………」