第39章 デートでお給料二週間分
「これ、プロポーズだろ!? テレビで見たよ!」
「コラ、邪魔しないの!」
その甲高い声に何事かと思い顔を上げると私たちと、周りの人との間に妙な距離が出来ていた。
私たちを指差している先ほどの小さな男の子をたしなめた、その子の母親らしき人がぎこちなく笑いかけてくる。
「すみません……でもあの、おめでとうございます」
「へ………あ、えっと」
それからバラバラとおめでとー! おめでとう!! などと見知らぬ人々から声を掛けられ、仕舞いに拍手まで聞こえてくる。
「良いなー熱烈」
「モデルさん同士かな。 目が潤うー」
「お幸せに!」
「ありがとう。 でもそろそろ照れくさいので、退場します」
琥牙が苦笑しながら軽くお辞儀をして私を抱き上げると、更に大きな拍手になり、自然に開けられた道をすり抜ける。
ちなみに私はずっと顔を伏せたままだった。 恥ずかしすぎて。
人も疎らな階下に降りる階段に差し掛かり、ふう。 と琥牙が息をつく。
「ビックリした。 なんとなく視線は感じてたけど、真弥が大声出すから」
「どっからなの? もう私、死にそう」
「それは駄目。 ねえ、でも。 知らない人から構われるのも悪くないよね?」
いっぱいお祝いされたし。 そう言われると恥ずかしいながらもあれはまるで、結婚式みたいなノリだったなと思わないでもない。
きっと人間でも狼でも、あったかい人もそうでない人もいて。
今ここで見ている、眩しい位に金色に光る海。 里の山に広がる朝焼け。
彼と見る景色はそんな風に、私の中で忘れてたものを気付かせてくれる。
これからどこにいても誰と関わろうとも、琥牙みたいに、曇りのない目でそれを見て生きていきたいと思う。
異なる二つの魂を持つ、彼と共に。