第39章 デートでお給料二週間分
琥牙とずっと一緒に住んでいて、例えば出掛けるときの服選びに迷う。 そんな事態になったことがなかった。
先週に里から帰ってきて本日は一週間伸びていた、彼との初デートの日である。
というわけで、今朝から私は珍しく、クローゼットのある寝室に籠っている。
軽くシャワーを浴びたあと、もう背中まで伸びてる髪はドライヤーで丁寧にセットしてから毛先だけ巻いて、仕上げはお気に入りのオイルでつやつやトロトロにしたし。
私はいつもはジーンズスタイルが多い。
今日もそんな感じのものをハンガーから手に取りかけた。
けれどせっかくのデートなら、女らしい格好にすべきかもしれない。
自分が着ると体の線が出過ぎて目立ちそうで、何となく避けていたニットのワンピースをクローゼットの奥から引っ張り出してみた。
「やっぱりね………」
それを身に付けた自分の姿を眺めつつ、過去の嫌な思い出が頭をよぎる。
ごく一般論で、背が高い場合は服が映えるとか羨ましがられたりもするけど………なんというか、映えすぎるのだ。
これが小柄な子だと、キュートな印象になる筈のミニスカやぴったりとしたカットソーも、自分が着ると生々し過ぎて。
もう少しマニッシュな感じを出せるといいのだけれど。 そう思い軽く頬に手を当てる。
こんな服を着て、チカンなんかに何度遭ったことか。
ああいうのって、途中で突如、強盗や暴漢に豹変したりするから、二次被害が怖いのよね。
そんなことを考えながら鏡の前でため息をつきつつ、またいつも通りの厚ぼったいメンズのシャツをハンガーから外そうとした。
「真弥、どうしたの? いつもは準備なんて5分」
そんなとき、既に出掛ける支度が出来ている琥牙がダイニングから声を掛けてきた。
さすがに5分は無いと思うんだけど。
「ごめんね待たせて。 ちょっと着る服に迷ってて」
一応の断りを入れるとへえ、珍しい。 という彼の声。
「入っていい?」
いいよ。 そう受けて、新品のシャツの値札を外すために、ウロウロハサミを探してる私を見た琥牙の表情が一瞬固まる。