第38章 おねだりは露天風呂で*
「ん………気持ちい」
頬っぺたに置かれた冷たいタオルが、じんじんと熱くなってきていた肌を覚ましてくれる。
「でもなんで、ここなの」
確かに自宅の狭いマンションのバスルームでは、一緒に入ったことがあるといってもせいぜいシャワーぐらいとはいえ。
「一緒にお風呂に入りたかったから」
だって母さんと入ってて、なんでおれは除け者なの。 そんな風に、琥牙が拗ねた口調で言ってくる。
「じゃあ朱璃様と入ればいいんじゃない」
「勘弁してよ」
心底嫌そうに被せてきた彼に小さく笑う。
あの後、琥牙の部屋にタオルや部屋着などを取りに行き、広間に居た朱璃様に挨拶をした。
朱璃様は、傷と泥だらけの私たちを見て驚いた顔をして、直ぐになにかがあったことは察したようだった。
それでも『もう里のことは琥牙に任せてある』そう以前に言ったとおり、目を合わせて肩をすくめてみせた息子に対して、軽く息をついた朱璃様はなにも詮索しなかった。
……と、いうより、直ぐに後ろから追ってきた雪牙くんたちが、矢継ぎ早にことの顛末を朱璃様に説明し始めた。
この場は彼らに任せようと思ったらしい琥牙に「行こうか」と促され、結局、私たちはその場をあとにしたのだった。
服も汚れてるし、気持ち悪いでしょ? そんな彼の言葉にも頷いたものの。
いきなり彼の実家のお風呂に二人で入るのって、よく考えたらどうなんだろう?
………とはいえ、十分に足を伸ばした広さの浴槽に浸かるお湯は相変わらず気持ちよすぎて、温泉ならではのぬめりのある泉質はアルカリ寄りなのか。
琥牙に後ろから抱っこされた体勢で、私は思わずほうと息をついた。