第35章 彼と初めての亀裂
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「なんなの、あれ」
いくらはしかだって、限度がある。
今度は反抗期なの?
感情的になっている勢いに任せ、私は駅の方角にズカズカ早足で歩いていた。
その私に歩を合わせて横へついてきた、黒っぽい銀色の犬。 じゃなく。
「伯斗さん………」
「申し訳ございません。 会話を盗み……聞こえてしまいました」
さすがにここが歩道だからか、お互いに前を向いたまま小さな声で言葉を交わす。
「伯斗さんも、どうせ琥牙の味方なんでしょう?」
まだ気持ちが収まらなかったこれは、八つ当たりなのかもしれない。
「味方というと……。 確かに琥牙様は、私にとってなにに変えても守るべきお方。 そして伴侶である真弥どのも。 しかしそれを置いても、此度の二ノ宮甥の行動には不自然なものがあります。 一旦は里に受け入れた者です。 琥牙様のように切って捨てるは、少しばかり尚早かと」
素っ気なく言った私に、伯斗さんが丁寧に話してくれた。
それで私も幾分か落ち着いて、若干足を緩める。
「ごめんなさい。 それでは………私に協力してくれますか?」
「はい。 そのつもりで参りました」
それでもなんとも気が重い。
彼とのあんな喧嘩は初めてだった。
あんな琥牙、全然彼らしくない。
「琥牙を……本当に嫌いになったわけじゃないんです」
「分かっております。 おそらく琥牙様は……」
ふと遠くを見るような顔をした伯斗さんが、次に地面に視線を落とし、考え込むような表情をした。
どうかしましたか? そう聞いてみたら今は眼前の問題を優先しましょう。と返事がかえってきた。
「……それほど時間もありませんし。 さ、参りましょうか」
「っはい!!」