第34章 里の特産月の石
軽く笑みを漏らし表情を緩めた朱璃様が話してくれる。
「故郷を見付けたということだろう。 あの歳まで己の居場所が無かったのは辛いことだ。 ……そんな意味で、あの叔父のことも心が痛むだろうがなあ」
「あの若い狼たちはどうするのですか」
「妻子も居るし本能から里に戻るのだろうが、しばらくは謹慎だろうなあ。 月の力も治まって心を入れ替えたのなら結構。 そうでなければ……どうするかは琥牙。 あれが決めることだ。 すでに私は決定権をあれに譲った」
特に琥牙だけがそうだということはない。
だけど彼らはそもそも、『仲間』や『身内』以外────────特に敵に関しては、容赦がない。
そんな意味で、私は二ノ宮くんのことを心配していた。
それにしても。
あの時私を助けてくれたときに目の前にあった、浩二の傷付いた背中を思い出した。
朱璃様ほどとは言わない。
けれどせめて、自分の身は守れるようになれたら。
いや、あそこで生きていくのならそうすべきだと思った。
「……私も里に『帰った』ら、戦い方を教えてくれませんか?」
「構わんぞ。 体を動かしたあとの風呂は格別。 また女同士、今度は酒でも飲みながら風呂で語るか」
そう言ってにこりと顔を綻ばせる朱璃様。
「是非!」
普段は凛としている女性だけに、それは余計に人懐っこくて可愛らしく見え、女同士でもきゅんとくるものがある。
浩二ってある意味、見る目あるんだわ。 そんなことを思った。