第31章 役立たずな言葉と饒舌な体*
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「──────雪牙、見てないよね?」
先ほどから無言だった琥牙の圧力に押され、沈黙が室内を包んでいた。
その彼が口を開き、聞かれた雪牙くんは、さっきから頬の赤みを誤魔化そうと肘でグイグイ顔を拭っている。
なんだろう。 こんなことより大事なことを忘れてる気がする。
「み、見てねー。 んなもん」
正座してる彼がいささか前屈みだったのは見ない振りをしておいた。
こうみえてもその辺りはもうお年頃らしい。
ちなみに伯斗さんは雪牙くんの横で床にお腹をつけて座り、薄目を開けてこの場の収束をのんびりと待っている。
個人的感情で眉を寄せ、苛々した表情を隠そうともせず、不機嫌そうに腰に手を当てている今や彼らの長、琥牙である。
「オカズになんてしたら殴るよ? ……ったく。 そもそも真弥もそんな男物のシャツ一枚。 はだけた格好で飛び付くとか、そそっかしいぶっ越えて有り得ない」
そして飛び火がこちらに。
とはいえ、悪いのは私だから仕方ない。
雪牙くんにも大変申し訳ない。
「ゴメンナサイ」
「大体なんなの? おれの時に真弥があんなリアクションしたことなんてないし。 出会い頭に抱きつくとか」
そこもなの?
「……それは雪牙くんって私にとっても弟みたいで」
「浩二くんには違うよね?」
一秒も待たずに返答が被さってくる。
だって雪牙くんはまだ見た目子供だし、可愛いし。
「………そうですね」
ダメだ取り付く島がない。
成長してマシになったかと思ってたら相変わらず、こういう時は彼の狼資質が全開になるようだ。
過去云々よりも、彼らの本能としては、目の前の雌が死活問題なのだろうか。