第5章 この後掃除が大変でした
彼が出て行ってからもまだしょんぼりしてる様子の雪牙くんを見ると、確かにまだ子供なんだなあと思う。
「雪牙くん、気にしないで。 きっと琥牙は雪牙くんの事を心配してるんだよ」
つい髪に手をやろうとしたら、ぱしっとそれを振り払われ、キッとこちらを睨んだのちにまた彼があっと言う間に狼に戻った。
「おっ、お前なんかに分かるかよっ……バカバーカ!」
歯を剥き出して威嚇してくるのに全く怖くない。
いくら悪態つかれようが気の毒だけど、もう可愛いしかない。
私がちっとも動じないので、雪牙くんは悔しげに舌打ちしてから外に飛び出して行った。
「真弥どの、すみませんでした」
「伯斗さん。 私はいいんですよ」
「いえ。 でも、こんな事を言うとまた琥牙様の怒りを買うかもしれませんが、琥牙様が真弥どのに慎重だったのは、単に私たちが覗……様子を観察していたせいだけではないと思うんです」
そこは覗いてたって認めないのね。
狼のプライドって厄介。
***
「では、私もそろそろこれで」
「雪牙くんは大丈夫かな?」
「はい。 近くにいるのは匂いで分かります。 琥牙様に叱られて、今頃落ち込んで反省しているでしょう。 雪牙様は琥牙様の事を幼少時から亡きお父上の様にも慕っていたので、里から居なくなった琥牙様を取られた様な気がして、真弥どのについあんな口をきいたのだと思うんです」
「そうだったんですか……でも私、全然気にしてませんよ。 根は良い子だと分かりますし」
「真弥どの、私は琥牙様の気持ちが分かりますよ」
「? はい……」
実は彼らがその心と同じに表情豊かなのは最近分かってきた。
拍斗さんがにっこりと笑って雪牙くんの後に続きベランダへと向かう。
「私たちはしばらくこちらへの訪問は控えますが近くにはおりますゆえ……また」