第29章 午後11時。愛欲の奴隷*
そう、なのかな?
若干不可解に思いながらも瞼にかかる指先の望む通りに私は目を閉じた。
琥牙が私の体を撫でている。
頬を通って首の横、肩口から腕。
どこかひんやりと冷たい。
指先に辿り着いたら胸と腰、それからお腹に手のひらを当てる。
覚まされた官能。
恋しいって思う気持ち。
色んなものが薄地のレースみたいに私に被さっていってはしっとりと重ねられる。 彼の動きや体温。 そんなものが次々にそれをすり抜けて滴って、溜まってく。
私の内腿に届く指先は繊細なくせに、時おり薄い肌を剥ぐように引っ掻いては滑らかな腹でそれを慰める。
切なくて泣きたくなる。
そうならないように溜まりすぎたら心の中でそれを注意深くすくって、そしてまた心地良さに息をついて、その時なぜか私の脳裏に広がったのは里で観た夏の終わりの空。
ずっと彼が見ていた景色。
花畑の元に照らされるあわい朝焼け、遠くから降る昼の光。 夜の静かで美しい物悲しさ。
いつだって私には抗えないと、琥牙は分かってくれているのだろうか。
つつつ、と傷を付けない程度の道しるべを皮膚に刻み続ける彼は、そのあとに遺される、胸が締め付けられるような私の想いの欠片も助けてくれる?
グチュ…下半身を包む布地に潜った時にした、そんな濁った水音は、どうしようもなく高まってる私を表している。
そこの割れた綻びを優しく滑る。
指ですくって肉と花びらの間を埋めてなぞる。