第28章 桜井家の最終兵器
それにまあ、あの叔父さんと保くんなら間違いなんて無いだろうし。 姉の立場としても文句はない。
「莉緒ちゃんたちって、都心の方って良く来んの?」
「去年の夏休みに遊びに来た位ですよ。 ね、莉緒」
「明日は朝からでもどっかリクエストあったら連れてこか? カフェでもショッピングでも、良さげなとこ知ってるし」
「わあ! 楽しみ!! お姉ちゃん、明日連絡するね! 私たち、先に外に出てる」
デート、保さんとデート……莉緒がぼうっとした表情で呟きながら美緒に急かされ、二人がせわしなく出て行った。
玄関先に見送りに来ていた私が、腰をかがめて靴を履く二ノ宮くんに声をかける。
「なんか急にお邪魔することなっちゃって。 騒がしいけどよろしくね」
「全然任せて。 俺、妹タイプの子好きだし」
ん? それどういう意味?
「人なのに?」
「人ってか……俺って基本的に、みんな好きなんだよね。 性の対象になんないってだけで。 逆に言うと、好きだからするってのも無い。 欲と好意は別なわけ」
「? 変わってるのね」
「そ? 男なら分かんじゃない。 琥牙さんとかも」
「……同性としては。 保くんは極端だと思うけど」
ははっ、かも知れませんね。 なんて明るく笑いを残しぱたんとマンションのドアが閉じられた。
「二ノ宮くんって、冷たいんだか優しいんだかよく分かんない」
良く言えば、博愛主義者みたいな感じなのかな。
私も琥牙が居なかったら、彼の側に近かったのだろうか。
ううん、いくら何でもあそこまでドライじゃない。
「おれたちとは種族的な考えも違うみたいだね。 彼のこと本気で好きになる子には少し気の毒かな。 真弥、妹さんたちと一緒に居たかった?」
「うーん? そもそも押しかけてきたのはあっちだし、莉緒のこと考えてもそれは別に。 でもどうしたの? 琥牙ちょっと変」
突然両腕を胸の下に回してきて、後ろからぎゅっと抱き締められた。
彼の口の辺りの位置に私の耳がある。
「わからない? 欲と好意がドロドロのおれとしては限界なんだけど」
そこで小さく囁かれた声はどこか熱っぽかった。