第28章 桜井家の最終兵器
ずっと彼自身とはご無沙汰だったし、もちろん私だって応えたいもの。
「違わ、ない……よ」
それでも改めるとなんだか照れてしまい、グラスを取り出しながら、ちょっと曖昧な肯定の返事をすると背後で彼がふっと軽く笑った気配がした。
「それじゃ、有難くいただこっか」
「えっっ???」
「晩ご飯」
「えっ!? …あ、はい」
なんだご飯か。
視線を下にやるとお箸などもすでに配膳されたあとで、椅子を引いた彼が先に席に着く。
いただきます、両手を合わせてからワインを多めに口に含んだ。
ダイニングの明かりは電球色だから、お酒とは別の理由で私の顔が赤いのが見えないといいんだけど。
「んん? カプレーゼのチーズが美味しい……」
「なんか中にクリームが入ってるって店員さんが勧めてくれたよ。 真弥そういうの好きでしょ?」
「大好きだよ! んー、幸せ」
頬っぺたが落ちそうとはこのこと。
思わず頬に手のひらを当てて、バジルソースの香りとまろやかなパルミジャーノの食感を堪能している私をじっと見詰めている琥牙に気付いた。
「なあに?」
「かわいくって堪んないなって。 今晩の映画はまた今度でいい?」
「…んうっ」
大きめに切られたチーズをつるんと丸のみしてしまい、思わずむせてしまった。
げほげほとせき込んで、琥牙が慌ててお茶を渡してくれた時、立てて続けに二度、インターホンが鳴った。
「? ごほ…っ」
「何、こんな時間に…ああ、いいよ。 おれ出るから」
確かに夜の9時に訪ねてくるなんて。
少なくとも泊斗さんとかあの辺ではないよね、ちらりとベランダを見やり玄関先に向かった琥牙のあとでモニターを覗き込み、つい声に出してしまった。
「え? 莉緒……美緒!?」