第27章 ゴールデン・ドーン
────────タン、タン。…タタッ!タッ…!!
ゆっくりだったスピードが、どんどん上がっていく。
陽が降り注ぐ、周囲の景色が混ざって霞んでく。
地面を駆け抜ける様は軽やかで、まるで一陣の風になった一体感に、言い様の無い高揚を感じた。
「なんか真弥、嬉しそう?」
私に呼応して弾んだ彼の声。
多分きっと、今琥牙も同じように喜んでる。
彼の鼓動や熱が、そう私に伝えてるのが分かった。
草地を、岩場を、宙を。
剥き出しの大地を駆ける、跳ぶように走っている。
「当たり前だよ!! あんな子がこんな立派な狼になるなんて……」
「あんな子って、何それ ………そういえば、母さんが言ってたよ。 あんな状況で涙もこぼさない、気丈で情の深い、おれには勿体ない良い嫁だって」
声を殺してたけど、琥牙には分かってたみたいだった。
「でも……ふふ。やっぱり真弥、変わってるよね」
家に帰るまでの間。
「ねえ。 何でおれが、真弥に惹かれたか分かる? 例えばいっぱいいっぱいでも、いつも余裕を保とうってする癖。 その理由を考えると、真弥の優先順位はいつも自分以外だ………他人の痛みに対しては酷く敏感だから。 それとはまるで真逆な本能を持ってたおれが、初めて守りたいと思った」
子守り唄みたいな彼の声に揺られながらどんどん溢れてきて。
「そうやって苦労して余らせといて、消費される事なんか我関せずって、つまずきながら自分を律してる。 ……おれにとっては今のこの、眩しい位の夜明けみたいな、そんな真弥におれは出会えたんだよ」
そりゃいくらなんでも誇張じゃないの?
単に私、ボケっとしてるだけだけど。
そう突っ込みたくても言葉が出てこなくって、琥牙の首元から肩の毛が、びっしょりと濡れるまで、彼にしがみつきながら私は泣き続けたのだった。