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オオカミ少年とおねえさん

第4章 雨夜のためいき



大人の立場から諭そうとする高遠さんとは真逆に社会的地位とか、歳の差とか。
そんなものを我関さずとして、琥牙が高遠さんを見下ろしている。


「また真弥に手出す前に壊してやるよ。 その脆い腕」

「琥牙、止めてったら」


「……どうかしてる」


口角を上げたまま首を横に振り、琥牙の視界から避けるように高遠さんがその場を離れた。

得体の知れないものを見たような反応。
別れ際に私に向かってぎこちなく微笑んで、あれは高遠さんの精一杯の虚勢だったに違いない。



彼の姿が見えなくなると琥牙が濡れてるよ、といつもの口調で、私に向かって傘を差してきた。

こないだ襲われた時みたいに、何かされた訳でもないというのに。
つい非難がましい目で見てしまい、その時彼の前髪からぽたぽたと落ちている水滴に気付いた。

自分は傘も差さずに走ってきたのだろうか。
……私のために。


「……高遠さんの言う通り、どうかしてるよ」

「どっちが? 他の雄の匂いさせて帰って来られるのはおれは許せない」

「琥牙……もう止めようよ。 そういうの。 琥牙は亡くなったお姉さんに、私を重ねてるだけでしょう?」

「おれがそんな事言った? それに、例えそうでも問題ある?」


「触れ…ないのに?」

「え?」

「私を抱く気もないのに?」


だって兄弟ごっこなんて私にはもう無理だもの。


「琥牙は女として私を好きなわけじゃないんだよ」

「人って……真弥は、しなきゃそんな事も分かんないの?」


「……どういう事?」


琥牙の呆れたみたいな言い方についカチンとなった。
どうしたって私と彼が異なり過ぎてるのは事実なのに。


「分かん、ない。 だって私と琥牙は違うもの。 ……違うのに、分かってて当たり前だなんて……自分の世界が当然だなんて、下に見て私を責めないでよ」

「下にとか、そんなつもりない……おれは真弥に近付きたいって、ずっと思ってた。 そういうの、どうでも良かった? 一緒にいて、毎日真弥が笑ってくれるのが嬉しかったよ。 真弥は違う?」


「……私は」


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