第24章 狼少年を追え*
休暇が終わって里から戻り、元の都会に戻った私は、いつもにも増してぼんやりと過ごしていた。
時差ボケというものに少し似ている。
気温も景色も違ってどうも体が怠い。
あんまり道路が固くて足が疲れる。
会社で話し掛けられて振り向くと、それが人間なのに驚いた。 いやそれは当たり前なんだけどさ。
そんな自分が悩ましくもあり有難くもあり。
里にいた時よりもここの方が琥牙を感じる。
会社からの帰り道、駅やよく一緒に買い物をしたスーパー、カフェやレストラン。
そこかしこに彼の記憶がある。
そして極めつけはあの無駄に広いマンション。
買い換えたダブルのベッドで毎日の朝を迎え、冷たく空いている私の左側に触れてやるせない気持ちになる。
琥牙は今どこにいるんだろうか。
何をしてるんだろうか。
──────彼が、恋しい
***
向こうに滞在中の間。
朱璃様は初めに戻り、何事も無かったかのように振る舞っていた。
彼女には何か考えがあるようで、その覚悟はあるのかと前に私に訊いた。
それで私は何をすればいいのでしょう? それに答える代わりに、帰る前日に妙な事を訊いてきた。
奥まった方にある広間はどうやら朱璃様の私室の一部のようで、彼女はいつも日中はそこで過ごしていた。
朱璃様と向かい合わせの、大きめな椅子に腰を掛け、伯斗さんは相変わらず朱璃様の傍に鎮座している。
「人狼と付き合うのは負担がきつかろ? 見た所、お前はそう鍛えてもないようだしなあ」
「いえ別に困りませんが」
むしろ彼は色々便利です。
「そうか? 私など最初はしょっちゅう筋肉痛諸々に悩まされたものだが」
朱璃様の表情が至極真顔だったので分からなかった。
首を60度ほど傾げてると、伯斗さんがたまりかねたようにウホンウホンと咳払いをして、察した。
そちらの方ですか?
「実はその面でも心配していたのでなあ。 同じ狼なのならまだしも日々何度もなると」
「え、や……そんなには、な、無い…ですよ? せいぜい、週に……に、数回とか。 ごくたまに、少し多い時も…ありましたけど」
主に週末に。
どもりつつ告白すると、朱璃様と伯斗さんがなんだか眉を水平に近い八の字に向けた変な顔をしている。
この非常時に、これはなんの暴露大会なんだろう。