第22章 郷曲におもむく(身長)
「猟銃を携えた男たちを襲ったそのやり口は残虐なものでな。 喉をひと噛み、そんなものではなかった。 既に致命傷を与えているというのに。 そしてその直後、あの子は私たちに向かって牙を向いてきたのだよ」
そんな血なまぐささとは無縁とも思えるこの地で、当時のその光景を思い出すと寒気がした。
狼の雪牙くんでさえ、彼には全く敵わなかったのに。
「成長したといっても当時まだ奴は子供だったからなあ。 私だってなまじこんな所に居て腕に覚えが無いわけじゃない。 とにかく、それから人に戻り、目が覚めた琥牙は何も覚えていなかった」
ただ感じたのは、馬鹿馬鹿しい話かもしれないが。 そう言って元々低めの声の、トーンを更に落とす。
「あれは……『あの狼』は私の息子ではない。 私は、そう感じたのだよ」
そんなわけでお前の察しの通り、人知れず後始末をした後に、私はあれの病を長引かせる事で、月が満ちるタイミングとずらしていた。
そうすると、琥牙は変わらずそのままにあの姿が保てたからな。
「出来損ないの跡取りとして、何も知らない者はあれに対する陰口もあった。 母親としては酷い話だが、ここを守るためだったからなあ。 お前が無事でよかった」
そんな私への労りの言葉のあと、ふいと目線を元の里の方向へと向ける。
「……そろそろ上がろうか。 もう食事の支度も出来ておろう」
いつしか相槌さえも打たなくなり、私は黙って耳を傾けていた。
何と言っていいのか分からなかったからだ。
彼女の方こそ、病気で苦しむ息子の顔など見たくなかったろう。
自分の夫が亡くなったばかりで、きっと色んな思いもあった中で。
そんな風に相手の心情を思い巡らしながら、湯舟から上がり床に足を着けると、ふとこちらに視線が向けられている事に気付いた。
「お前はなんというか、攻撃的な体をしているなあ」
「私はお母様の様に鍛えていませんが……」
「そういう意味ではない」
これなら息子が骨抜きにもなるわけだ。言い淀んでいる私に、再びハハハッと豪快に笑い飛ばし温泉をあとにする。
そういう彼女は普通の大きさのタオルで充分体がすっぽりと隠れていた。
ずるい。
「そういえば真弥、私の名は朱璃(あかり)だ。 琥牙の伴侶といえど私はお前の母ではないし、御母堂に申し訳ない」
そう伏し目がちに朱璃様が言った。