第21章 望まない変化の襲来
首に包帯を巻きぐったりとした雪牙くんを肩に抱えた琥牙がバルコニーへと向かう。
今までそこから出入りなどした事のない彼だった。
カラカラとガラス戸が開かれて生温い夜風の中に彼が足を踏み出す。
闇夜に連れて行かれるみたいな錯覚を覚えて、彼を止めるのに駆け寄ろうとした。
「待っ……」
それが一瞬で姿を消して、ザン、ザン、と木々へ二度移動する音の後、本当に何も聞こえなくなった。
「あ」
居なくなったのだと思った。
彼が消えてしまったのだと思った。
余りにも突然で、呆気なさすぎて、伯斗さんを振り返るけれど彼は言葉も無くただ俯くだけ。
それからまた外へと視線を移しその名を呼ぶ。
「琥牙………?」
「少しの間、外します。 ……申し訳ございません」
何に対して謝るのか。
伯斗さんも同様に部屋を出て行き、急にかくんと足の力が抜けた。
「…………」
広いフローリングの床に手をついて、私は考えていた。
私は今泣くべきなのだろうか?
けれど何に対してそうするのか分からなかった。
彼が死んだわけじゃない。
嫌われたわけじゃない。
琥牙はいつまた自分が変化して私に危害を加えるであろう事を恐れてここを去った。
私は納得してない。
その前に分からない事だらけで。
ふと、先日供牙様に言われた言葉が頭に閃いた。
「………受け入れる……………」
私を、受け入れる。
伴侶を愛する私の意志を。
琥牙を愛してる。
うん、と力強く頷くとすっと気持ちが落ち着いた。
泣くのなんて後回し。
まずは考える。
そして私がやるべき事をする。