第20章 月下の交合*
周りの景色を見渡して、これはいつかのあの世界なのだとすぐに気付いた。
漆黒であろう世界に唯一降り注ぐこれは彼の慰めみたいだなんて思える。
あの晩も満月だったもの。
そして私が今いるここも。
月の大きな夜の琥牙はいつもにも増して激しい。
けれど今晩の彼はどこか抑えたように私を抱いた。
丁寧に労わるように、一つ一つに慈しみを落として私に触れた。
もどかしくて切なくって内側からじりじりと焦げるようなそんな行為だった。
『彼は血の味を知っている』
琥牙に訊けないまま、毎日が過ぎていった。
訊けないのはなぜだろう?
私だけが知る事が出来ないのはなぜだろう。
その後も言葉少なに寝入ってしまった彼に、ほんの少しだけ物足りなさを感じて目を閉じた後。
すぐにまた別の夜に連れていかれたのだった。
「始祖様」
躊躇いなくそう呼んだ。
恐らくそれで間違いないと思っていたから。
夢と片付けるには生々しくて普段と同じに自分の五感が用をなし、感情や意志の力が働く。
ここを空間は異なるが、しかし『有る世界』だと結局のところ私は理解していた。
その答えを示すかのように、再び私はこうやってここに立っている。