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オオカミ少年とおねえさん

第19章 狼社会の不文律




「雪牙くん…に、逃げよう。 中華、食べに行こう?」


この場はそうした方がいい。 そんな風に言う私の方を雪牙くんは見もせずに、前方中央の男を見据えている。


「オレは負けねぇし、真弥ん事守るって約束したから」


「あ、だめっ!!」


雄叫びを上げて再び向かっていこうとする彼を止めるべきだ。
そう思って、私が咄嗟に伸ばした手は彼からはあまりにも遠過ぎた。

だってこんなのフェアじゃない。

また何かが激しく打ち合う音がする、そう思う前に私は固く両目を閉じていた。


「に、二のみ……二ノ宮くん、ちょっと。 止めさせて」


二人から離れた所にいる彼に声を掛ける。

二ノ宮くんは手を出せない、といった表情だった。
そして彼が動いていない、という事は雪牙くんが傷付いてるって事ではないだろうか。

あんな小さな子が?
そんな場面をとても見る事が出来ない。


「止めて! こんっなの…違う!!」


ゴッ!!そんな硬質な音が辺りに響き、周りがしんとした。


「ガタガタ喚くんじゃねぇよ」


ようやく声の方に顔を向けると、唇についてる血をぐいっと袖で拭きながら雪牙くんが立っている。


「………え?」


その傍ではなんと逆にあの大男が呻きながら床に両肘をつけて跪いていた。


「ってえな……」


碧眼の瞳を伏せた様子は不機嫌そうで、いくらかはダメージを受けたらしい。

比類のない愛らしさに野性味や男らしさが加わると、妙な色気が加わるというか。

ヤバい。
ちょっと琥牙がいなかったら惚れてたかもしれない。


「せ、雪牙くんっ…血が」



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