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オオカミ少年とおねえさん

第19章 狼社会の不文律



翌日の仕事が終わり、ふーっと息を吐いた後に首を左右に傾けて肩の凝りをほぐしつつ。

雪牙くんの予想どおりというか。
ビル出口の自動ドアをくぐって歩いてすぐ、二ノ宮くんが敷地内の門の前に立って、階段を降りようとする私を見上げてきた。


「ええと……私はどうすればいいのかな?」

「桜井さんって相変わらずぼんやりしてるね……エサになってくれれば有難いんだけど。 そしたら勝手に向こうから来ると思うから」


うわひどい。
最初いい人そうだと思ったのに他人をエサ扱い。

少しここ離れようか。 そう言った二ノ宮くんが私の先を歩く。
これ、ついてっていいのだろうか。
ちょっと悩んでいると彼が声をかけてくる。


「警戒しなくっていいよ。 俺人間の女には興味ないから。 終わったらちゃんと帰すし」

「……あー、そうなの」


あなたの性的嗜好には全く興味ないんですけど。


大通りを抜ける前の脇道に逸れ、小さな商店などが並ぶ古い街並みに出た。
18時を過ぎたというのにまだ外は明るい。

元のオフィスビルに隠れて見えない斜陽が、私たち二人の長い影をアスファルトに落としていた。


「ああ、でもさ。 桜井さんっていつも背筋ぴんと伸びてて、そういうのいいなって思ってた」

「そう?」


確かに姿勢には気を付けてるかも。
お腹出ちゃうって聞くし。


「長身で猫背の女性とかいるじゃん? 逆に俺みたいな背低くって卑屈なタイプも個人的に苦手なんだよね」

「まあ……確かにいる、かな」

「でしょ? それで勝手に周りに気使われると凄ぇメンドクセってなるんだよ俺」


うちの田舎に帰ると、親戚が結婚とかの話をあからさまに避けてくれるああいう感じよね。
うんうん頷きながら二ノ宮くんに相槌を打つ。


「それは分かるな私も。好きな時にヒールとか履きたいんだよね」


琥牙なんかも全然そんな事は気にしなくって、それも私が彼の事を好きな理由の一つである。


「そういうの、桜井さんなら分かってくれそうって思ってた」

「ふうん?」

「だから理解してくれるでしょ? 生まれとか関係なく、自分の殻破りたいって気持ちとか」

「……そうだね。 分かる」



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