第18章 避ければ当たる面倒事
「でしょ? でも人間も自然界も同じだよね、いい悪いじゃなくって」
確かに。
野心、その根底に流れる欲。
そんなもので私たち人間の歴史も形作られてる。
「けど、そんな妖怪の事なんかよく知ってるね」
「母親が元々北の方の巫女かなんかで、小さい時にその手の話をよくしてくれた。 雪牙は大丈夫だよ。 明日ならしばらくしたらおれも行くし。 晩は久し振りに外食する?」
外食。
そういえば、最近の食事作りは琥牙に任せっきりだ。
うちの弟のせいでいつもの二倍の量作らせるのも悪いし。 真面目な顔で謙遜していた。
「じゃあ、明日は金曜日だから夜はみんなで中華食べに行こう!」
「それ、美味いのか?」
食べてる最中にも興味を引かれたみたいに雪牙くんが話に入ってくる。
「見た事ない? 丸いテーブルに大きなお皿いっぱいのってるやつ」
都内の美味しいお店がずらりと並んだガイドブックを本棚から出し、雪牙くんに中華料理店のページをめくって見せるとへえ、美味しそう。 と琥牙も関心を寄せてきた。
バルコニーの開け放された網戸から、さっきまで聴こえていた虫の音が私たちの騒がしさに声を潜める。
ああいうのはワイワイ食べたいよね。
「紹興酒!」
「ちょっと真弥また飲みすぎないでよ」
「オレ北京ダックっての食べたい!」
「予算オーバーじゃないの?」
「ふふっ、実は明日は私、給料日なんだよ!」
「真弥かっけぇ!!」
そんな風にまた話が別に逸れていき、夏の夜は更けていく。