第16章 月色の獣 - 在る理由
「──────────」
夜が明けて目を覚ました供牙と仲間達が異変に気付き、すぐにその場へ駆けつけた時、言葉を発するものはいなかった。
膝を折り赤い地面に倒れている男が一人。
うつ伏せで同じ様に事切れている女が一人。
それを庇う様に覆い被さり、辛うじて原型を留めている元は黒銀の毛色の狼。
人間二人の首から上は無かった。
仲間の狼の数匹は犬の様な悲鳴を上げてその場を離れた。
残る狼も耳と尾を挟み、その場にぺたんとうつ伏せる。
その光景よりも、既に異様な殺気を身に纏っている供牙に恐れを成した彼等の自然の本能からだった。
「元の主人の……匂いがする。 加世に繋がるしかし、死んだ血の匂いだ」
倒れているあの男は庭師。
あとは複数の人間の血と、刃物の匂い。
主人や他の死体は連れ去られたのか……?
「────────っ!!」
ドガッ!っと鈍い音がして、黒銀の亡骸が宙に舞った。
どさりと地に落ちたその体を高く膝を上げた供牙が力の限り踏み潰す。
それがただの肉片として土塊と混ざるまで何度も、何度も、何度も。
「き……っ、供牙様」
眉をぐっと吊り上げ悪鬼の表情で怒り狂う群れのリーダーに周囲は震え上がっていた。
吐き捨てるかのような供牙の荒い息は時々喉元で詰まり、人間とも獣ともつかない呻きが辺りに響く。
「お前が……っ貴様、如きが! よくもこの、私に…よくも……!!!」
たとえ二人が村を出たとしても、あんな物を飲ませられなければ。
すぐに異変に気付きここに駆け付けられた。
「供牙……様!! 黒銀はおそらく身を呈して加世様を」
「……っ黙れ!!!!」
背後から掛けられる言葉が終わらないうちに供牙が激しくそれを遮り、同胞は素早く引き下がった。
そんなものが何の役に立ったと言うのだ。
「黙れ…………」