第15章 月色の獣 - 新月に疾く
早く走ろうとしても肩にのしかかる男の体はやはり重い。
それに加世の気のせいだろうか。
どうも庭師は自分で積極的に歩こうとはしていない様に思える。
それ程傷が痛むのだろうか。
「大丈夫です。 きっと助かりますから」
彼の様子に気を取られて加世は周りに気を配る事をすっかりと忘れていた。
「誰だ!?」
「きゃあっ!」
木立の間から飛び出して来た黒い影に加世が悲鳴をあげた。
「女だ! 男が一人いる」
「うッ…あう」
庭師が激しく首を振り、加世の着物の袖を取った。
……逃げなければ。
先程までの動きがまるで嘘の様に、庭師が加世の手を引いて駆け始めた。
でも、もしも戻ったら。
戻れば村の場所が彼らに分かってしまう。
そんな迷いもあり、怪我人と女の二人は徐々に追い詰められていった。
「あっ──────」
枝に絡んで解けたのだろう、加世の髪がぐいと後ろに引かれる。
二人共その場で重心を失い地面に崩れた。
「捕まえたぞ!! おおい」
バタバタという足音がして体の痛みを堪え見上げた時には加世は何人かの男達に取り囲まれていた。
「お前は確か……庭師だな? 役に立たぬと思っていたがよくやった。 という事は、連れの女は加世様だ」
「歳は20歳を超えた辺りで間違いない。 ああ、ようやく。 お前達、旦那様に知らせるんだ!」
「……これでこの者達にあなたの怪我を治してもらえるのかしら? それならば良いのですが」
無理に気丈に振舞おうとする加世に庭師は彼女の手を取って、それをぎゅっと握り締める。
俯いている彼の肩は震えていた。
「………加世!!!」
その懐かしい声に思わず振り向くと何年振りかに再会した父親の姿があった。