第7章 初恋 【悲鳴嶼】
それから1ヶ月経った頃、だいぶ生活にも慣れてきた奏は行冥と川に遊びに出かけることにした。
「かわに、きたこと、ある?」
行冥の問いかけに首を振る奏。
「わたしおよげない」
「だいじょうぶ、あさい、かわだから。」
川に着くと、穏やかなせせらぎが聞こえる。
行冥はその音で川の状態はいつも通り安全だと判断した。
奏は音は聞こえないものの、キラキラと光り穏やかに流れる水に感動した。
行冥は奏の手を取り「いこう」と促す。
ジャバジャバと水に入っていく行冥に対し、恐る恐る爪先を濡らすか濡らさないかくらいでいる奏。
行冥は奏を迎えに行き、そっと手を握った。
「つかまるといい。」
行冥の言葉に頷き、奏はその手を握り、そっと水に足をつける。
ビクッと身体を震わせ、動かなくなる奏。
「つめたかった?」
そう聞くと、何度もうんうんと頷いた。
ゆっくりと川を進んでいく。
割と大きな岩の多いところで、その岩は滑りやすい。
奏が足を滑らせないように、気をつけて歩く。
「きをつけて。」
その言葉にまた頷き、行冥の手を握りなおす。
しかし、その時行冥はふと自分たちの状況に気がついた。
今、自分は彼女と手を繋いでいるのだ…と。
いくら奏が転ばないように…と、心配りの内だとしても女の子と手を握り合ったのは初めてだった。