第5章 目的 【煉獄】
移動中、自分たちについての情報を交換した。
好きな食べ物から趣味、家族構成や仕事のことまで。
「そうか、奏さんは保育士をしているんだな!」
「はい、とても楽しいですよ。大変な時もありますけどね。」
煉獄さんは好きな食べ物はさつまいも全般らしい。
その中で味噌汁が1番のようだ。
趣味は読書
家族構成は父母に弟が1人いて、そっくりなんだとか。
仕事はIT関係…だけど、私にはよくわからない世界だ。
「…ところで、どうしてあのアプリを?
やっぱり出会いを探していたんですか?」
「…出会い…間違いでは無いな!
しかし、人と話したい…から。の方があっているかもな。」
話によると、婚活などを目的としているのではなく、ただ気の合う人と話したいからアプリを登録しているようだ。
「へー、誰か良い人いましたか?」
「そうだな、何人か会ったことはあるが皆一度きりだな。」
「え?また会いましょうとか…無いんですか?」
こんなイケメン、もう一度会いたいと思わないのか?
それとも…難あり?
「いや、それは毎回言われる!女性は特にな。
しかし、俺がダメだった。」
あー、そういうパターンね。
そうよね、どちらかと言えば煉獄さんに決定権あるよね。
はいはい、と頷きながら私は手のひらに指で杏の文字を書く。
「登録の名前は、あん?あんず?」
「俺の名前の一文字だ。」
煉獄さんは私の左手を取り、指で漢字を書き始めた。
「あんずの杏で、きょう。寿でじゅ。で、よくある郎。」
彼の長い指で手のひらに書かれた文字は、私にこそばゆさを連れて来る。
少しむずむずして手のひらをピクッと動かすと、煉獄さんがチラリとこちらを見た。
「君の手は存外小さいのだな…」
そう言って手を合わせたり、指一本一本をなぞったり、手のひらを揉んだりしてきた。
えっ何?どういう状況?
こんなにイケメンに触れられたことないから、どうして良いかわからない!
「俺の手は少し大きめなんだそうだ。
君の手などすぐに隠れてしまうな!」
ぎゅっと私の手の上から包み込まれ、もう私はこのまま昇天するかと思った。