第5章 目的 【煉獄】
しばらくその人の動向が気になり、遠目で見ていると
そのイケメンはスラックスのポケットからスマホを取り出す。
そして、操作をしてキョロキョロと辺りを見回している。
——どのホームか分からないのかな?
ぴこん♪
アプリの通知音が鳴り、現実に呼び戻された。
——久々にイケメンを見て癒されていたというのに…
残念な人が来たら泣きたい。
憂鬱な気持ちでアプリを開く。
杏(どこだろう?僕はスーツを着ています。)
スーツ…
奏はハッとイケメンを見る。
——いや、まさか。都合が良すぎる頭だな、私。
あんなイケメンがマッチングアプリで探しているわけない。
それに、スーツといってもシャツとベストじゃないか。
奏もキョロキョロと辺りを見る。
しかし、疲れ切ったスーツのおじさんしかいない。
30歳だってあったし…
嘘つかれてあのおじさんの中にいるのか?
不安が不安を呼ぶ。
どこ?杏さんどこ?
イケメンは相変わらずキョロキョロしている。
少しずつこちらの方に移動しながら。
——あの人だったらなー。
そんな淡い期待を乗せながら自分も杏さんと思われる人を探す。
…あ。今目が合った気がする。
すると、少しにこやかな顔でイケメンがこちらに向かってくる。
——え、何?私?道…道案内かなっ、分かるところかな?
立派に道案内の責務を果たせるだろうか。
そんな一抹の不安を抱えながら私は身構えた。
彼は本当に私の目の前に来た。
やばっ、背高っ
瞳も髪と同じ色じゃん!
え、何?かっこいいんですけど。
夢…?夢かな?
しばらく我を忘れて見惚れていると、イケメンの口から信じられない言葉が発せられた。
「もしかして、奏さん?」
「ひぇ⁉︎は、はい!」
なぜイケメンの口から私の名前が出て来たのか…。