第3章 望むままに 【煉獄】
「…ん?」
『逢瀬がしたいです!!』
逢瀬…恋人、愛し合う男女が待ち合わせをし、密かに会うことだ。
それをどこで少年は知ったのか。
「杏寿郎?その言葉の意味はわかって使っているのかな?」
『…っはい!』
覚えたての言葉を使ってみたかったのかと思ったが、真っ直ぐな目で見てくる杏寿郎に適当な答えをするのは駄目だと思った。
「…杏寿郎、悪いけどそれには応えられない。」
『え…』
杏寿郎の目が揺らぐ。
優しい奏は嘘でも頷いてくれると思っていた。
それが、こんなにもはっきりと断られてしまうなんて。
「…逢瀬として出かけるのは杏寿郎には早すぎる。
本当の意味を分かっていない。」
『本当の意味…?』
「出かけたいのなら、明日は普通に出かけよう。
どこにでも付き合う。しかし、それは師範と弟子として。」
『…では、俺が本当の意味を分かったら、それなら逢瀬をしてくださいますか⁉︎』
「そうね…。じゃぁ、杏寿郎が逢瀬の意味を知って、その上でまだ私とそうしたいと言うのなら、また告げてくれるかな?」
『はい!』
決して馬鹿にしてあしらったわけではない。
それは杏寿郎にも分かっていた。
だから、それ以上は食い下がることもしなかった。
しかし、奏から条件がつけられた。
・決して人に聞いたりしないこと。
・自分の気持ちに正直でいること。