第3章 望むままに 【煉獄】
『…あれは…水柱様…』
杏寿郎の耳にも2人がどう見られているかは入ってきていた。
微笑みあっている2人に
チクリと胸が痛む。
やはり、お似合いだ…
自分よりずっと大人で、
余裕さえ感じさせる。
自分に驕ることもなく、
誰にでも優しくできる。
そんな水柱に自分が太刀打ちなどできるはずがないと思っていた。
…この気持ちは自分の中にしまっておこう。
そう思っていると、自然と足が止まっていたようで、
奏が不思議そうに首を傾げて見ていた。
「杏寿郎、どうしたの?
早く戻っておいで。」
まるで子を呼ぶ母のような声。
杏(…やはり、俺は師範にとって子供でしかないのか…)
杏寿郎は自分の心を隠し、いつもの溌剌とした表情で奏の元へと駆けて行った。
『水柱様!こんにちは!
お話し中でしたので、お邪魔かと思いまして…』
「こんにちは。君が煉獄さんの息子さんだね。
杏寿郎って名前なのか。お父上にそっくりだ。」
そう言って頭をワシワシと撫でる木之元に、なんとなく負けた気を感じながらも、笑顔を作る。
しかし、奏は杏寿郎へ違和感を感じていた。
「それじゃ、僕は任務もあるからこの辺で失礼するよ。
今度、僕にも君の鍛錬の成果を見せておくれ。」
『はい!』
杏寿郎の胸はモヤモヤと霧がかったような複雑な気持ちだった。
「杏寿郎。」
奏が杏寿郎を呼ぶ。
『…?何でしょうか!』
「私、明日は非番なんだ。
杏寿郎がここに来てから、まだ休みらしい休みをとってなかったね。だから明日は鍛錬はお休みにして、杏寿郎のやりたいことをしよう!寝たいなら寝ててもいい。
街に行きたいなら街に出かけてもいい。
ちゃんとお小遣いもあげるから、安心していいよ。」
明日までに考えておいてね。
そう言って、奏は夕飯の支度に向かって行った。
(俺がやりたいことを…しても良い日。)
『…師範!』
「ん?なぁに?」
味噌汁の鍋を混ぜる奏が、穏やかな微笑みで振り返ると杏寿郎はぶわっと熱が高まる。
『俺…俺は明日、師範と逢瀬がしたいです!!!』