第21章 我儘が聞きたい【煉獄】
「よもや、待っていたら眠ってしまったのか…。」
側にあったブランケットをかけてやる。
そっと髪を撫でると、気持ちよさそうに表情が和らいだ。
奏にキスをしようと、顔を近づけた時。
「ん…ん?」
気配に気づいてしまったのか、奏が目を覚ます。
「おかえり。お疲れ様。」
まだ少し眠そうな声で、にこりと微笑む。
「もう少し早く帰りたかったんだが…。すまない。」
「んーん。お仕事なんだもの、仕方ないよ。
寒かったでしょ?お風呂沸いてるよ。食事は?お腹空いてたら入ってる間に温めとくよ。」
「…ありがとう。しかし、奏は俺の事ばかりだな…。」
奏は滅多に我儘を言わない。
我慢している訳ではなさそうだが、たまには我儘言ったって良いのにと思う。
今まであったとしたら、無限列車の煉獄さんを生き返らせてくれ…と言われたことくらいだろう。
「杏寿郎が無事に帰ってきてくれれば、それで嬉しいよ。」
いつもそう言って微笑んでくれる。
普段なら、このように受け入れてくれるのは大変ありがたいが、今日はクリスマスイブだ。
「どうしてもっと早く帰ってきてくれないの⁉︎」
などのお叱りがあってもおかしくないのに。
「さ、お風呂…入っておいで。」
それなのに君は…優しすぎる。
「奏…」
「ん?」
「クリスマスプレゼント…まだ用意できてないんだ。」
「ん、いいよ。忙しいんだもの。」
ほら、クリスマスにプレゼントも持っていない夫を咎めることもない。
「奏、少しは我儘言ったって良いんだぞ?」
「え?何、急に。我儘…って、クリスマスプレゼント無いとやだ!って?」
くすくす笑いながら奏は俺を風呂場へ向かわせようと背中を押す。
「分かった。じゃぁ、考えとく。我儘。」