第19章 番(つがい)
「奏、こちらにおいで。」
今日も涼風花魁に呼ばれて、彼女の所へと擦り寄る。
そうすると頭を撫でてくれるのだ。
彼女の手はいつもひんやりしている。
でも私はこの手しか知らない。
この手に慣れている私は心地よくて目を細める。
私がもし、この格子を抜け出してしまったなら
涼風花魁は1人になってしまう。
私は彼女に救われた身。
…飼われた身。
私は今の私と逸れるわけにはいかない。
でも、ほんのちょっと外に行きたいと思った時に、恋をした。
『彼と一緒にいたい。』
もしこの想いを紡いだ言葉さえ
影を背負わすのならば
一度聞いたことがある。
海は広いだけじゃなく、とてもとても深いのだと。
そして、その底には物言わぬ貝がいるのだと。
そんな貝になれたなら。
「あら。もうこんな時間。
そろそろ用意をしましょうね。」
涼風花魁が私から離れて
店に出る準備をする。
行ってほしくないな…。
また貴女の綺麗な頸に、男達の欲にまみれた手が触れるのだと思うと…。
するとその時、
『キャー!!!』
「⁉︎どうしたのかしら?」