第19章 番(つがい)
———彼が好き。———
そう自分の気持ちに気づいた翌日から
彼は姿を見せなくなった。
「もう、この地を離れてしまったのかしら…。」
それでいい。
それで。
好きや嫌い。
出逢いや別れ。
そんなことは世の中ではよくある話。
第一、私と彼じゃ住む世界が違いすぎるのだ。
「奏、こちらへおいで。
今日も素敵な歌声を聴かせておくれ。」
そう優しく私を呼びつけるのは
涼風花魁。
奏。
それがこの世界でつけられた
私の名前。
私は店には出ることはない。
だけれど、この涼風花魁のために私は歌を歌う。
私が歌うと、彼女は目を閉じて
うっとりと聴いてくれる。
私は生まれて間も無く
両親とは離された。
異国の血が流れている私は
とても高額で取引されていたところで
涼風花魁の目に留まり
今こうして生きている。
妙な趣味を持った中年に買われて鑑賞されるよりよっぽど良い。
私は毎日、彼女のために歌った。
元から歌は得意だったし、好きだ。
それで彼女の癒しになるのなら…。
でも、最近空を見上げて
外に出たいと思った。