第2章 鳥籠の鳥 ❇︎ 【煉獄】
奏の知り合いが男だったからだ。
「紹介しますね、彼がここの店主の村田くんです。」
『どうも、村田です。』
村田と名乗る男がにこやかに挨拶してくる。
嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
奏の口から他の男の名前が出てくるのが。
君はさっき、この男と話をしてあんなにニコニコして出てきたというのか?
「そして、こちらが煉獄さん。キメツ学園の先生なのよ。」
「どうも、煉獄です。」
俺はポーカーフェイスでにこやかに頭を下げる。
『へー!俺もキメツ学園の卒業生で。懐かしいなぁ!』
正直村田の話などどうでも良かった。
それより村田に奏を見せたくないという衝動に駆られる。
話も長引きそうな感じがしたので、「良い匂いでお腹が空いた」と微笑めば、奏は「そうですよね!」と、席に向かってくれた。
奏を奥のソファ席に座らせて、俺がその前に座る。
そうすれば小柄な奏は俺の背中で厨房から見えることはない。
ホールの女性にそれぞれ食べたいものを頼み、しばし待つ。
その間も会話は絶えず楽しかった。
時折奏を見る男たちに殺気を飛ばし、悪い虫が付かないようにするのにも抜かり無い。
15分ほどで料理が運ばれてきた。
俺はさっぱりしたものが良かったので、バジルとトマトの冷製パスタ。
奏はレモンクリームパスタというものを頼んだ。
村田の料理は悔しいが美味しかった。
「うまい!」
「ふふ、良かったです。美味しいですよね」
そう言って微笑む奏を見て顔に一気に熱が集まる。
あぁ、なんて幸せそうに食べるのだろう。
君との食事なら、どんな料理でも美味しく感じるのだろうな…。
唇についたクリームを舌でぺろっと舐める仕草は、よからぬ妄想を掻き立てるには十分だった。
今夜帰ったら君を見ながら今の仕草を思い出そう。
そして自分を慰める。
はやく…君自身に触りたい…。