第16章 trick or treat ❇︎【宇髄】
ーーーーーーーーーーーー
「…分かった?」
「…うん。」
パタンと冷蔵庫を閉めて、私に背を向けたまま項垂れている天元。
きっと彼は今ものすごく落ち込んでいると思う。
でも、私だってどんな風におもてなししようか、色々考えたのに約束をしていたわけじゃないけど、裏切られた気分になったのは事実。
彼が反省しているのは十分分かっているけれど、私は復讐を兼ねて少し意地悪することにした。
「そういうこと。ちょっと流石に疲れちゃったから、寝るね。」
そう言って私は寝室へと向かう。
「は…ちょっと待って…」
天元は慌てたようにそう言ったけど、これで待つ人ってあまりいないと思う。
寝室のドアを閉める時、ドアノブが動くのを感じた。
「着替えるから開けないで。」
「いつも同じところで着替えてるだろ…。」
ドア越しに聞こえるちょっと覇気のない声。
「着替えるから…。」
私がもう一度言うと、「分かった…」と彼がドアから離れていくのが分かった。
…ちょっとやりすぎたかな?
でも、もうこんな事なくしてほしいし、私の気持ちもわかってほしい。
部屋着に着替えて、私は本当にベッドに横になってみた。
…眠る気はない。
ドアの方に背を向けていると、そっとドアが開く音がする。
「奏?」
「………。」
「なぁ、ほんと…ごめん…」
思わずニヤけてしまいそうになるのを堪えながら、寝たふりをする。
天元は私が寝たふりだっていうのは分かっているはずだ。
「奏…」
ギシッとベッドを軋ませながら、私の顔を見ようとしてくるのが分かる。
掛け布団をかぶるように顔を隠す。
なんでって、ちょっと笑ってしまいそうだから。