第15章 猫とまたたび 【煉獄】
ある夜、俺は不覚にも鬼に傷を負わされてしまった。
こんなにむしゃくしゃするのは初めてだ。
早く彼女に会って癒されたい。
そう思って家に帰るよりも先に、藤の家紋の家へと向かった。
「ご苦労様でございます。」
「奏さんはいるか?彼女に会いたいのだが。」
「眠っていますが…起こしましょうか?」
夜が明けて間もない頃。
眠っていて当たり前の時間だ。
「あ…いや。起こさないで構わない。」
俺は自分勝手だな…。
そう思って、踵を返そうとした時
「煉獄様…?」
聞きたかった声が聞こえて振り返ると、眠そうな目を擦りながら女将の隣に立つ奏さんの姿。
「起こしてしまったか…?」
俺は彼女の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
「いえ、大丈夫です。…それよりお怪我をされていますね?」
彼女は俺の腕を掴み、袖を捲って傷のある部分を露わにした。
「大したことはないさ。」
「痛かったでしょう…。」
俺を心から心配してくれているのだと、不謹慎だが嬉しくてたまらなかった。
「君といると、なんだか困ったことに鬼殺をやめたくなる時がある。」
「え?」
「君とずっと過ごせたら、どれだけ良いかと…。」
彼女の前だと何も考えたくなくなる。
心地よくて、酔いしれたような気持ちになるんだ。
まるで、またたびを与えられた猫のように。
1週間後、柱合会議に呼ばれている。
そこで炎柱を担うことになるだろう。
父もこんな気持ちだったのだろうか。
俺も彼女を失ったら、あのような喪失感を感じるのだろうか。
「俺は君が好きなようだ。」
そう本音がぽろりと口から溢れた時、彼女はふっと笑った。
「私も、あなたが好きです。」