第15章 猫とまたたび 【煉獄】
こちらの気を知ってか知らずか…。
彼女は俺の手をするりと抜けて、また擦り寄ってくる。
周りの通り過ぎる人たちは
「あらあら。」
とクスリと笑って去っていく。
きっと大胆な恋人…とでも思われているのだろうか。
「むぅ!いかん!」
俺がまた引き離そうとすると、彼女は俺の首筋に顔を近づけ
スンッと鼻を鳴らす。
俺はそんな事をされるとは思わず、不覚にもビクッと身体が跳ねた。
「貴方様は、とても良い香りがします。」
彼女はそう言うと、今度は首元にスリッと頬を寄せる。
待て、待て待て。
臭うだとか言われた日には、流石の俺も立ち直れないかもしれないが、いくらなんでも初めて会ったに近い男女でこの距離感はおかしい。
「…君、鬼か?」
「鬼…?私が?」
いや、違うことは知っていた。
全くもってその気配はない。
間も無く柱に任命されるほどの実力の持ち主が、それを見抜かぬわけがない。
「又は…妖か。」
だが、それも違うのだろう。
なんせ、要が…全くと言って良いほど警戒していない。